新人マーケターにありがちなマズローの欲求段階に関する間違い

2012年5月8日

マズローの欲求段階は人の欲求を5段階のピラミッド形式で表しています。

少し前までマズローの欲求段階は心理学用語の一つだったのですが、今では社会人なら誰でも知っているビジネス用語になっているかと思います。

だけど、新人マーケターの人たちは、マズローの欲求段階を勘違いして使っていることが多いです。




マズローの欲求段階説を間違えて使っている事例

7,8年前の昔話。
知人の会社で高齢者向けの新しいサービスを開始するとのことで「ちょっと話を聞いてみる?」という状況になった。

知人「高齢者向けのサービスを始めるんだよね」
自分「へーそうなんですか」
知人「ちょっと話聞いてみる?」
自分「じゃあちょっとだけ」
知人「担当呼んでくるよ」

サービス担当者のプレゼン練習に付き合ってくれという感じの軽いノリの話。

そして出てきたのが新人マーケターの山田君(仮名)だった。

山田君は、主にマーケティングを担当している入社2年目の新人くん。
体のがっちりした体育会系で元気と勢いのあるタイプだ。

「ちっす!」「まじないっす!」「自分的には」といった言葉が口癖で、軽くイラっとさせてくれるタイプでもある。

知人「じゃあ山田君、新しいサービスちょろっと説明して」
山田「ちっす!」

山田君のプレゼンが始まる。

わたしは、山田君がシドロモドロになるのを期待した。
しかし、自信に満ち溢れた山田君のプレゼンはなかなかのモノ。
「イラっとするけど、話は上手だなー」という感じで期待を裏切ってくれた。
話はスイスイと進み、このサービスの核心部分である「サービス利用者のニーズ」の話になった。

山田「このサービスのターゲットはマズローの欲求段階で言えば、一番下の生理的欲求と安全の欲求を求めている高齢者です!」

ここでわたしは疑問を感じ、山田君に質問をなげかけた。

自分「ターゲットにしている高齢者の生理的欲求と安全の欲求だけど、なんでそれより上の欲求は狙わないの?」
山田「だいたいの高齢者は生理的欲求と安全の欲求を求めているんで」
自分「下の欲求が満たされない状態でも、上の欲求が出てくることはあるよね?」
山田「下の欲求が満たされないと上の欲求は出てこないんでwまじないっすw」

マズローの欲求段階はマーケティング本でよく取り上げられている。
だけど「ピラミッド下部の欲求が満たされなくても、上部の欲求は出てくる
という大事なことを書いている書籍は少ない。

そのため、書籍を中心にマーケティングを勉強している人は「下の欲求が満たされないと上の欲求は出てこない」という罠に引っかかりやすい。

おそらく山田君も、このバイアスに引っかかっている。

自分「例えば、その日の食糧に困っている売れない作家の人たちでも、人に認められたいとか尊敬されたいっていう承認欲求はあるんじゃないかな」
山田「ないっすwマズローの欲求段階は下からが基本なんで絶対ありえないっすw」
自分「そっか・・・。」

『絶対』というとても重い言葉をビジネスの場で簡単に使われてしまうと、議論する気力が一気に失せてしまう。

プレゼン後、山田君は「あざっすw」と一礼し、肩で風を切りながら帰っていった。
知人には山田君のマズローの欲求段階にたいする考え方は間違っていることを念押ししておいたが、ほどなくして高齢者向けサービスはオープンした。
キレイなWEBサイトも用意されていた。

その後、そのサービスがどうなったかは知らない。

ここまでが昔話。

そしてつい最近、山田花子氏の出産予定ニュースを見ていたらふと山田君のことを思い出した。
例のサービスがどうなっているかに気なり、キレイだったあのWEBサイトを覗くと「404の金髪おねえさん」が微笑んでいた。

理由はわからない。

マズローの欲求段階説を理解していないマーケターの思考法

山田君のように、マズローの欲求段階を間違えて理解しているマーケターに何度も会った。

その人たちには「他人を見下している」という特徴があるように思える。

自分自身は「自分の才能を開花させたい」なんていうピラミッド上部の自己実現を欲している。
だけど他人はそこまで登れず「日々の生活に苦しむ」ピラミッドの下で必死になっていると勘違いしてしまっている。
自分はピラミッドの上、他人はピラミッドの下だと。

このユーザをバカにしてしまっている考え方は、マーケターとしては致命的な欠点。
エリート意識が高く、自分を特別な人間だと思っているマーケターの人たちによくみられる考え方だと思う。

一度考えてみてほしい。
孤独な高齢者が、売れない作家が、正社員になりたくてもなれないフリーターの人達が、ほんとうにピラミッド上部の欲求を持っていないのか?

たしかにピラミッド下部の生理的欲求や安全欲求は、何よりも欲している人たちかもしれない。
だけど、そんなサービスは世の中に溢れかえっている。

「日々の生活に苦しむ」人たちこそ、ピラミッド上部の欲求に飢え苦しんでいるとなぜ考えないのか?

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