詐欺にあった・・・。詐欺の手口と騙された人の心理状態

2012年4月13日
権力
1ヶ月ほど前、詐欺にあった。

つい最近まで詐欺にあったという自覚は無かったのだが、友人にその話をしたところ、それは典型的な「寸借詐欺」だと言われた。

「あー、やられたなー・・・。」
というのがそのときの心境。

「寸借詐欺」は、結構メジャーな詐欺手法なんだけど、詐欺の被害にあったということに気がつかない人も多いらしい。

それってまさに自分。

そんなメジャーな「寸借詐欺」だけど、わたしみたいな失敗を少しでも減らせる教訓になればと思い、詐欺にあったときの状況と、詐欺の手口、詐欺に引っかかる人の心理状態をまとめてみました。




詐欺にあったときの状況

ある日の夕方、わたしは一人で路上を歩いていた。
線路沿いの小さな町工場が並ぶ、人通りの少ない道で、3月だというのに肌寒い日だった。
不景気のためか、町工場はまだ6時にもなっていないのにシャッターが下ろされている。

お客さんのところへ足を運ぶため何度も通ったことのある道だ。

すれ違う人もまばらなちょっとさみしい道。
いつもと変わらない。

そんな道をスタスタ歩いていると、見知らぬ人に声をかけられた。

「すみません。○○町へ行きたいのですが、どっちの方向ですか?」
50代くらいの男性で、背広姿にウィンドブレーカーを羽織っている人の良さそうなちょっと小柄なおっさんだった。
とくに怪しいところもなく、いたって普通のおっさん(以下おっさんと言う)

わたし「え?○○町ですか?えーっと・・・」
一瞬あせった。
○○町は有名な地名なので、場所は知っている。
だけど、今いる場所からは結構距離があり、どうやって行けばいいのかすぐには頭に思い浮かばなかったからだ。

わたし「えーっと、あそこの道を右に曲がって、ずーっと行くと・・・。」
わたし「いや待てよ。こっちの道かな・・・」
わたし「あっ!歩いて行くんですかね?」

おっさん「はい。歩いて行きます」

わたし「歩いて行くにはちょっと遠すぎる距離ですね。電車じゃないと無理じゃないかな」

おっさん「電車はちょっと・・・」
おっさん「実は兵庫から来たんですが、カバンを置き引きにあってサイフごと盗まれてしまって・・・」
おっさん「あぁぁー・・・」

わたし「え?そうなんですか・・・」

おっさん「警察には行ったんですが、身分証が無いとお金を貸してもらえなくて。」
おっさん「免許書は財布に入れてあったし、家族と連絡を取りたいけどケイタイも一緒に・・・」
たしかにおっさんは手ぶらだ。
そしておっさんは『あーもう!あーもう!あーもう!』というような、やりきれない顔になっていた。


わたし「そうですか・・・」
『うわぁ、めんどうそうだから関わりたくねー』と正直思った。
いつものわたしなら「大変そうですね。それじゃ」と言って、その場を立ち去るだろう。
しかしなぜかその日は違った。

わたし「これ電車賃に使ってください」

と言って、1000円差し出した。

自分でも驚くべき行動だった。
厄介ごとを嫌うタイプだし、見知らぬ他人にお金を差し出したことなんて人生のなかで一度すらない。
用心深く、ケチな性格だ。

なのに何故?
その時、わたしにとってはいつもの1000円だけど、今のおっさんにとっては価値ある1000円になると思っていた。
誰も頼れる人のいない場所で、この1000円があればおっさんは救われるだろうと。

こんな良い意味での気持ちも持っていたが、いやらしい考えも持っていた。

感謝したおっさんが後日、仕事をくれないだろうかと。
人のためにお金を使えば、まわりまわって自分に返ってくると自己啓発本に書いてあったため、実践してみようと思ったのだ。

おっさん「いやいや!受け取れませんよ!」

わたし「いいっすよ。遠慮せず使ってください。」

おっさん「いやいや!そんな乞食みたいなマネできませんよ!」

わたし「歩いて行けない距離ですし、電車で行けばすぐですよ」

おっさん「いやいや!」

わたし「いいっすよ。」

おっさん「いやいや!」

わたし「いいっすよ。」

おっさん「いやいや!」

わたし「いいっすよ。」

おっさん「いやいや!」

わたし「いいっすよ。」
こんなやり取りを数分続けたが、わたしは1000円をひっこめようとは思わなかった。
この1000円でおっさんは救わると確信していたからだ。

そうこうしているうちにおっさんの態度が変わった。

おっさん「本当に申し訳ない・・・。ではお言葉に甘えて・・・。」
おっさん「連絡先教えてください。月曜日に家へ帰るので、そのときお金振り込みますので」

わたし「いや。返さなくていいっすよ。」
数分間の「どうぞ」「いやいや」を繰り返しているうちに、当初の「仕事をくれないかな」というイヤラシイ気持ちは萎えていた。
というより正直めんどう臭くなってきて、早く帰りたかった。

また、おっさんが負担するとはいえ1000円のために振り込み代金を使うのはもったいないとも思った。


おっさん「そうですか・・・。本当にありがとうございます」
それから、おっさんは安心したのか、雑談を始めた。
何を話していたのかよく覚えていないような、大したことない話。
さっさと帰りたかったのだが、良い人を演じ続けるために聞くことにした。


しかし、ここからおっさんは勝負に出てくる。

おっさん「これから○○大学へ行くんですが、今から歩いていっても夜中になるんで、窓口開いてないかな・・・」
○○大学は、この近辺では知名度のある有名大学だ。

わたし「うーん・・・。どうでしょうねー。」
わたしは、おっさんが『どこかの学校の教員で出張のため○○大学へ行くのかな』と勝手に想像した。
背広にウィンドブレーカーという服装は、何となく学生時代の教師を思い出させたからだ。


おっさん「この辺で野宿できるような公園内ないでしょうか?」

わたし「え?野宿ですか・・・。」
3月とはいえ、今年は寒い日が多く、夜は氷点下近くまで気温は下がると思われる。
50代のおっさんにとって、野宿は厳しい。
もう1000円出して、マンガ喫茶にでも泊まってもらったほうがいいんじゃないかと思った。

財布を見る。
万札しかない。

日が落ち、薄暗くなってきた線路沿いの町工場の道は、いつもと変わらず誰も通らない。


わたし「これでどこかのホテルに泊ってください」

1万円差し出した。

おっさん「いやいや!」

わたし「今日は寒いですし、野宿は厳しいですよ」

おっさん「そうですね・・・」
一度は受け取りを拒否したが、おっさんは意外とあっさり一万円を受け取った


おっさん「では必ずお返しするので、連絡先を教えてください」
1000円ならまだしも、1万円はさすがに返してほしいと思い、名刺を差し出した。
ケイタイや名刺を盗られてしまったおっさんの連絡先は聞かなかった。

おっさん「家に帰ったら、必ず連絡いたします」
おっさん「ほんとうにありがとうございました!」


おっさんは駅に向かって歩いていき、わたしはすっかり暗くなった町工場の道を自宅に向け歩きだすのであった。


これが1ヶ月ほど前の話。
そういえば「おっさんから連絡無いな」と思い出し、世間話程度に友人に話したところ、典型的な「寸借詐欺」だと言われた。

騙し取られたのは1万1000円。
ニュースであるようなオレオレ詐欺の数百万円に比べると屁みたいな金額だが、この小額を騙し取るのが「寸借詐欺」らしい。


詐欺の手口と、騙される側の心理状態

今回の「寸借詐欺」には、大きく以下の2つのポイントがあると思われる。
1.引くに引けない状況にする
2、信頼させる

これらはお客さんに「YES」を言わせるための心理テクニックとして、一般企業の営業活動にも幅広く使われている。


まず「引くに引けない状況にする」について。
最初は道を尋ねるという「小さな負担」を相手に求める。
その次に電車賃という「少し大きな負担」を相手に求める。
そしてホテル代という「最終的な目標」を相手に求める。

これは「段階的要請法」と呼ばれる営業手法だ。
相手に小さな「YES」を言わせ続け、徐々に大きな要求へと変えていき、最終的な目標に「YES」と言わせる。

人は最初の小さな頼みごとに「YES」と言うと、自分を「他人からの頼みごとに応じる良い人なんだ」と錯覚してしまう。
すると一連の行動に一貫性を保ちたいという欲求が生まれ、次の頼みごとにも応じやすくなる。

自分の場合、これにドンピシャで当てはまる。
1000円をすでに差し出している状況でホテル代を「出さない」というのは、カッコが付かないというか、良い人を演じ続けたかったというか、相手の期待に答えたかったというか、なんとも表現しにくいが、とりあえずホテル代を「出さない」という選択肢は考えなかった。


さらにこの一貫性を強化させていたのが、問題の解決策を相手に言わせる手法だ。
おっさんは一度も解決策を言っていない。
すべてわたしが「歩くより電車に乗ったほうがよい」「お金を借りればよい」という解決策を提案していた。

これは捕まったときに「相手のほうからお金を貸してくれた」という、言い逃れの口実かもしれない。

だがこれは、よく言われる「自分で言い出した手前、引くに引けない」状況だ。
人は、一度立場を明確にすると、その立場を一貫して行動しようとしてしまう。


次におっさんの行きたかった「○○町」というのは、「歩くより電車に乗ったほうがよい」という解決策を相手から引き出すのに、とてつもなく優れていた。
地元の人間なら、距離的に「○○町」へ歩いて行けないのは、よく分かる。
そこへおっさんは「どっちの方向ですか?」と聞いてきた。
『え?ここから歩いて行くの?電車だよね?』と普通は思うだろう。
そこから「歩くより電車に乗ったほうがよい」という解決策をわたしから引き出している。


また「人通りの少ない線路沿いの町工場の道」という地理的な状況も「引くに引けない状況にする」に一役買っていたのではないかと思われる。
人は、困った人がいるときに、自分以外の人もいる状況では「誰かが助けるだろう」と考え、援助行動を起こしにくくなる。
逆に自分以外の誰もいない状況だと、「助けられるのは自分しかいない」と考え、進んで援助行動をおこなう傾向がある。
「人通りの少ない線路沿いの町工場の道」は、まさにこの状況だった。
自分が手を差し伸べなければ、おっさんは途方に暮れることになる。
おっさんを助けられるのは「自分しかいない」と無意識的に思い込んでいたような気がする。


「信頼させる」について。
おっさんは「信頼させる」ちょっとした手法を上手に組み合わせることで、わたしを信頼させ詐欺を成立させた。

まずおっさんが「教育関係者」を装っていたこと。
わたしはおっさんが、「大学」という単語やその服装から、「教育関係者」だと思い込んでしまった。
「教育関係者=信頼できる」というステレオタイプ的な発想が自分の中にあったため、ウソをついているなんて想像すらもしなかった。


次に「断る」ことで「自分はそんなつもりじゃないんだよ」と、本当の目的を悟られないようにしていたこと。
1000円という小額のときに、おっさんは「いやいや。受け取れない」と何度も断った。
これにより、わたしの中でおっさんは「お金がほしい」人ではなく、「ただ道を聞きたかった」だけの人になった。
「お金がほしい」人は信頼できないが、「ただ道を聞きたかった」だけの人なら、下心は無いだろうと安心してしまう。
だから、躊躇なく一万円を差し出してしまった。


最後に「信頼させる」とはちょっと違うかもしれないが、わたしを「共感させる」ことで「おっさんをほっとけない」という気持ちにさせたのではないだろうか。
「誰も頼れる人のいない場所で途方に暮れる」という誰もが経験したことのあるような状況。
わたしは学生の頃、一人でバイク旅行中に田舎道で転倒して、途方に暮れたことがあった。
ずっと昔の話だが、今でも鮮明に覚えている。
そのときの絶望感とおっさんの絶望感をシンクロさせていたのかもしれない。

(営業と詐欺って似ている・・・)



おっさんは本当に詐欺師だったのだろうか?
おっさんは名刺を無くしたんじゃないだろうか?
おっさんは今この瞬間、連絡しようとしているんじゃないだろうか?

おっさんのことを思う毎日である。

とくに恨んではいないし、騙されて損したとも思っていない。

「あっ騙されたんかな?」という、モヤっとした気持ち。


とりあえず「人のためにお金を使えば、まわりまわって自分に返ってくる」というのは、失敗したようだ。いやはや。
まあ一度の失敗で、誤った考えかただと認知してしまうのも不合理な考えかただと思うので、あと2、3回は騙されてみようと思います。

おっさんへ このブログを見たらすぐに連絡ください。待ってます。


2013年10月 追記
連絡が来ました!
警察から!

おっさんが逮捕されたそうです。
わたしは警察に被害届を出してなかったのですが、おっさんが所持していたカモリストの中にわたしの名前と連絡先があったそうです。

おっさんは、何度も寸借詐欺を繰り返していたそうで、かなり被害届が出ていたとのこと。
詐欺のターゲットになったのは、ほとんど大学生だったようです。
大学生が一番ひっかけやすかったのかな・・。

警察の人によると、逮捕時のおっさんの所持金は0円に近かったようで、騙されたお金はたぶん帰ってこないとのことでした。

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