キャッチコピー力を1ランク上げてくれる「メリットのメリット思考法」(プレゼンにも使えるよ)
お客さんのメリットは、メリットのメリットを考えろ。
これはわたしがプレゼンで失敗したときに、元上司から受け継いだちょっとしたおまじない。
このおまじないのおかげでキャッチコピーを考えるのがとても楽になった。
ある観光地にお店を開いた、脱サラオヤジの物語
脱サラした一人のオヤジが生まれ故郷の観光地にお店を開いた。
地元で採れた果物や野菜をミキサーにかけ、果汁100%のジュースを売るフルーツパーラーだ。
ほんとうは脱サラの定番であるラーメン屋を開きたかった。
だけど観光地でラーメンを食べる観光客は昔ほど多くないらしい。
事実、幼馴染のシゲちゃんが父親から引き継いだラーメン屋は売上が落ち込み、カレーやうどん、冷やし中華、さらには焼きそばまで始めたが、結局は潰れてしまった。
オヤジは考えた。
考えた末に行きついたのがフルーツパーラーだった。
自然と古い町並みに恵まれたその観光地は、夏は子供連れの家族やカップル、春や秋は定年したじいちゃんばあちゃんやに人気があったからだ。
オヤジの考えは的中し、オヤジのミキサージュースはそこそこの売れ具合で、お店を開いた3ヶ月後には黒字を叩きだした。
隅っこの小さな記事ながらも雑誌に取り上げられるようにもなった。
また、地元とはいえ一度は都会へ出て行ったオヤジの出戻りに冷やかな視線を投げかけていた近所の商店からの信頼も徐々に得られ、商店組合の企画長に抜擢された。
当時としてはまだ珍しいご当地イベントを開催し、観光地の知名度アップにも大きく貢献する。
オヤジの脱サラ人生は、本人の予想以上に順調だった。
死神
世の中の景気とは裏腹に、オヤジがお店を出した観光地の景気は上向き加減で誰もが浮足立っていた頃、ある噂が流れ始めた。
『この観光地にコンビニが出店を予定している』と。
観光客の立場からすると、田舎の観光地には売っていないものがあるコンビニはありがたい。
だが、お店の立場からするとコンビニは死神のようなものだ。
実情を知らない人達は「たかがコンビニに死神はないだろうw」と言う。
しかし、コンビニが出店した観光地は、またたくまにお店が潰れていく。
観光客はちょっとした飲み物や立ち食いだけではなく、お昼ゴハンまでもコンビニで済ますようになるからだ。
割高な観光地で買うよりも、コンビニで安く済ませようとする。
不思議なことに、その節約思考は食べ物だけではなくお土産の購入にも表れる。
コンビニは、感情で楽しむ観光地に合理的な思考を持ちこむのだろうか。
そしてお店が少なくなった観光地は、徐々にその魅力を失っていき観光客の足は遠のく。
魅力を失った観光地は、飲食以外のお店もそのあおりを受け潰れるスパイラルに陥り、観光地は死ぬ。
まさにコンビニは死神なのだ。
しかし、それを地元の商店組合が黙ってみているわけが無い。
多くの観光地にコンビニが無いのは、その怖さを知っている商店組合があらゆる手を使いコンビニの出店を阻止するからだ。
町議会や市議会、新聞社に訴え、コンビニに土地を貸そうとする者は村八分にすることで、自分たちを守ろうとする。
日が経つにつれ、コンビニ出店の噂話は現実味を増していった。
そしてオヤジはある事実を聞かされる。
コンビニの出店予定地は、あの幼馴染シゲちゃんのラーメン屋跡地だと。
シゲちゃんはラーメン屋を潰した後、通勤に車で1時間半もかかる、家電の部品工場で期間工として働いていた。
町の人達は緊急集会を開き、シゲちゃんを晒し者にして罵声を浴びせる。
シゲちゃんは黙って罵声を浴び続け、泣いていた。
町外れにある公園で、大きなドングリの木を降りられずに泣いていた、あの頃のように。
オヤジは何も言えなかった。
そしてシゲちゃんは町を去り、コンビニはオープンした。
オヤジのお店は1年で30%も売上が減った。
採算のとれるギリギリのところだったが、オヤジの店はまだ良いほうだった。
コンビニと戦う体力を持っていない高齢の店主たちは、早々に諦めお店を畳んでいく。
まだコンビニが出店して1年目だというのに、観光地の寿命は見えていた。
オヤジは、お客さんに商品を「売り込む」という行為を何となく恥ずかしいと思っていたため、宣伝やチラシでお店をアピールするのを控えていた。
だが今はそんなこと言っていられない。
ミキサージュースを売って生き残り、なんとしてでもこの観光地を守ると決意する。
『ビタミン満点の新鮮ジュース』
『地元で採れた美味しいジュース』
『ツブツブの入った荒削りジュース』
オヤジは、慣れないパソコンとプリンターを華麗に操り、がんばってWordで作りましたと言わんばかりのPOPとチラシでアピールした。
しかし、お客さんの反応は変わらず、売り上げは良くなるどころかさらに落ち込んでいき、赤字になる月がでるようになった。
オヤジは追い詰められた。
転機
妹夫婦がお店を訪ねてきた。
妹は、両親を亡くし嫁と離婚したオヤジにとって唯一の肉親であり、心許せる存在だ。
とくに、5歳になる妹の子供(甥)のカヨは、オヤジの心を和ませてくれる。
離婚してオヤジの元を去った、あの頃の我が子を思い出させてくれるのだろうか。
カヨ「おじちゃん、こんにちあ」
オヤジ「あぁこんにちは。よく来てくれたね」
オヤジの顔がくしゃっとニヤける。
妹「そういえば。コンビニできたんだってね」
オヤジ「あぁ。どの店も売上をもってかれている。斜め向かいの菊ばあさんの所は潰れてしまったよ」
妹「え!そうなの・・・。アニキの店はだいじょうぶ?」
オヤジ「まあなんとかね。なんとかやっているよ」
妹「そう・・・。」
オヤジ「そんなことより、新しいジュース作ったんだ。ジュース以外何にも出せないが飲んでいってくれ」
そういってオヤジは、新しく考案した新作ジュースを作りだした。
オヤジ「はい、カヨちゃん。ビタミン満点ジュースだよ」
カヨ「えぇーなにこれ。変な色!」
ジュースは、柑橘系の果物と緑の野菜をミックスさせていたため、黄緑色になっていた。
オヤジ「色は変だけどおいしいんだよ。ビタミン満点だしね!」
カヨ「イヤ!ビタミンいらない!」
困ったオヤジに、妹が助け船を出した。
妹「カヨ。ビタミンは体にとってもよくて、お風呂に入ったときの『からだ痒い痒い』が無くなるのよ」
カヨ「えぇ~ほんと~?」
妹「うん。ほんとだよ」
カヨ「・・・。わかった。飲んでみる」
カヨは新作ジュースを受けとり、恐るおそる口に含んだ。
カヨ「あ!おいしー!」
妹「そうよかったわね。全部飲めば『痒い痒い」無くなるから」
カヨ「うん!全部飲む!」
何気ない親子の会話だった。
しかし、オヤジの頭の中で何かがつながった。
オヤジ「そうか。お客さんはビタミンなんて求めてないんだ」
お客さんが本当に「知りたい」「聞きたい」「興味がある」のは、オヤジがメリットだと思っていた「ビタミン」ではなく、それが「どう役に立つか?」だった。
オヤジ「つまりメリットのメリットってことか・・・?」
オヤジは、お客さんが何を求めているのか考え直し、POPを作りなおした。
最初に思い浮かんだメリットは「ビタミン」だった。
この「ビタミン」のメリットは、健康に良いってことだよな。
冬のこの時期は、乾燥肌で悩んでいる女性や高齢者は多いからこんなのはどうだろうか。
『冬のカサカサ乾燥肌を潤す。ビタミン満点ジュース』
最初に思い浮かんだメリットは「地元で採れた」だった。
この「地元で採れた」のメリットは、ここにしか無い味ってことだよな。
自分が旅行に行くと「せっかく来たんだから思い出に残る何かをやりたい、食べたい」って思うから、こんなのはどうだろうか。
『旅の思い出を味覚で残そう。地元の採れたてジュース』
最初に思い浮かんだメリットは「ツブツブ」だった。
この「ツブツブ」のメリットは、ちょっと変わった食感だよな。
そういえば観光する人達は、非日常を求めているって雑誌に書いてあったな。
コンビニのある日常から、旅の非日常を思い出してもうためにも、こんなのはどうだろうか。
『今までに無い不思議な新触感。ツブツブジュース』
オヤジ「この3つのPOPで勝負してみるか・・・。」
そして1週間後、オヤジは新作ジュースを売り出し、POPを一新した。
お客さんの反応は変わった。
POPにチラッと目を向けたお客さんは、歩みがゆるやかになり立ち止まる。
そして、POPを指さしながら小声で相談し、一段落するとジュースを注文する。
そのまま去っていくお客さんは、まだまだ多い。
それでも以前と比べればオヤジのお店の前で立ち止まってくれるお客さんの数は劇的に増えた。
オヤジ「キャッチコピーって、本当にお客さんをキャッチしてくれるんだ」
オヤジは当たり前のことを身をもって体験した。
その後、オヤジのお店の売上は徐々に回復し、コンビニ進出前と変わらない売上になった。
意外なことに、オヤジのお店と同じように生き残ったお店も多かった。
オヤジのお店の盛況ぶりを見た他の店主たちが、オヤジにその秘訣を聞きに来るようになったからだ。
オヤジは言う。
お客さんのメリットは、メリットのメリットです。
時代の波にさらされながらも、生き残った男の物語。
※この物語はフィクションです
メリットのメリットを考えるキャッチコピー
トヨタの「なぜなぜ分析」と同じで、「メリット→メリット→メリット・・・」と考え続けることで、お客さんの欲している本質に近づける。
ただ、あまり深くメリットを掘り下げると、お客さんが認知できていないメリットだったり、ターゲットが極端に限定されるメリットになったり、逆に抽象的すぎるメリットになっていく。
メリットのメリットは、お客さんが欲している丁度よいメリットになってくれる。
やり方は簡単です。
一度、お試しください。
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